「お互いさま」

もう三十五年も昔になりますが、和歌山の高野山で修行していた時、長い正座の後、立ち上がる時に両足の甲をついて捻挫してしまったことがあります。二月十六日、雪が降る寒さ厳しい高野山山王院 月並法会でのことでした。

 その夜、足が丸太のように腫れて激しい痛みに寝ることができなくなりました。そして翌日から勤行、掃除など修行仲間に迷惑をかけてしまい、一人、山を下りようとしたことを覚えています。そんな時、自分も大変な中、私の身の回りの世話をやいてくれた仲間が、一言、「お互いさま。気にするな。」と言葉をかけてくれました。その一言にどれほど救われたことか…。

 弘法大師は『秘蔵宝鑰ーひぞうほうやくー』という書物の中で、

 『人を思いやる気持ち(慈悲)と、人に利益をもたらす行動(利他)をすることが全ての根本である。』と述べておられます。

 実は、修行生活で一番大切なこととは、この教えを実践の中で学ぶことだったのです。     (良光)

生麦山 龍泉寺

「身は華とともに落ちぬれども、心は香りとともに飛ぶ。」 弘法大師のことばです。仏さまのもとからこの世に生まれ、また仏さまのもとへと、いつか旅立って行く私たち。身体はなくなってしまっても、幸せを願う想いは、いつまでも心から心へと受け継ぐことができるのです…。生麦山龍泉寺は横浜・鶴見の高野山真言宗のお寺です。