「作 品」

 人は生まれた時、真っ白いキャンバスを一つ、仏さまから頂きます。

 掴まり立ちを覚えて行くように、最初は点を打つだけ。やがて縦の棒、横の棒、次は丸や三角・四角が描けるようになっていきます。 そして嬉しい時は明るい色を、悲しい時やつらい時は沈んだ色を絵筆に載せていきます。

 人生の節目の様々な出来事がひとつづつ、鮮やかな色彩と共に生き生きと描かれて、画面が少しずつ埋まって行きます。

 初めておつかいに一人で行ったこと。やさしかったおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にお祭りに行ったこと。家族で愛していたペットが静かに息を引き取った時のこと。

 かけがえのない恩師との出会い、そして大切な人との別れ…。

「作品」の完成は、ある日突然訪れます。描いた本人は、それを自分の眼で見ることはできないのです。 

 何年か後に、残された私たちが心を込めて描かれた「作品」に対面し、作者の語りかけに静かに耳を傾けること、それがご法事の大切な意味なのかもしれません。(良光)

生麦山 龍泉寺

「身は華とともに落ちぬれども、心は香りとともに飛ぶ。」 弘法大師のことばです。仏さまのもとからこの世に生まれ、また仏さまのもとへと、いつか旅立って行く私たち。身体はなくなってしまっても、幸せを願う想いは、いつまでも心から心へと受け継ぐことができるのです…。生麦山龍泉寺は横浜・鶴見の高野山真言宗のお寺です。