白梅

 石段を上って龍泉寺の門をくぐり、竹垣を過ぎた左側に小さな白梅の木があります。正月も半ばを過ぎたころの一番寒い季節に、可憐な白い花をつけはじめます。2月の雪がちらつく頃に花を開き、やがて温かい春の訪れが感じられる時節、他の花々が美しい姿を見せ始める頃には静かに花を散らします。

 昔から「なぜ、一番寒い季節に花を開いて、皆が見てくれる温かい春先には散ってしまうのだろうか?」と子供ながらに思っていました。「お彼岸の頃に咲けば皆に見て貰えるのに…。」

 人にも色々生き方があり、舞台で華々しくスポットライトを浴びる人もいれば、そうした舞台を裏から素晴らしい技量で支える人もいます。どちらも大切な人々です。     

 どんな花にも、そしてどんな人にも尊い価値があります。雪中に咲く白い梅のように、与えられた場所でその人らしく精一杯いのちを輝かすことができたら、さりげなく小さな幸せを周りの人に分け与えることができれば、それは素晴らしい人生なのではないでしょうか。 (良光)

 



生麦山 龍泉寺

「身は華とともに落ちぬれども、心は香りとともに飛ぶ。」 弘法大師のことばです。仏さまのもとからこの世に生まれ、また仏さまのもとへと、いつか旅立って行く私たち。身体はなくなってしまっても、幸せを願う想いは、いつまでも心から心へと受け継ぐことができるのです…。生麦山龍泉寺は横浜・鶴見の高野山真言宗のお寺です。